『起承転々 怒っている人、集まれ!』佐々木忠次氏、新国立劇場への嘆き


先月、東京バレエ団の創立者で「日本のディアギレフ」と名高い佐々木忠次氏の訃報がありました。
心よりご冥福をお祈りいたします。
ワイドショーでは続いて蜷川さんの訃報ニュースが入ってしまい、すぐ話題が移ってしまいましたが
佐々木忠次氏は日本バレエ界の地位を世界に知らしめるまでに押し上げ、そのご逝去を悼み各国からメッセージが来るほどの重鎮です。
ちなみにディアギレフというのはロシアバレエの地位をトップの座に押し上げた伝説級の興行師(=今で言えばプロデューサー)の名前です。
本当に佐々木忠次氏さんがいなかったら今日までのバレエ業界の発展はなかったのではないでしょうか。
ƒn[ƒŒƒ€

佐々木忠次氏といえば『起承転々 怒っている人、集まれ!―オペラ&バレエ・プロデューサーの紙つぶて』という書かれた本が有名ですね。
日本のバレエ界の変遷を知るうえで大変貴重な本です。

しかも面白い!!!

まぁ、『起承転々 怒っている人、集まれ!―オペラ&バレエ・プロデューサーの紙つぶて』
という題名からしてそうなんですが、バレエの変遷と重い内容にもかかわらず、くだけた文章なのです。
さすが日本のみならず世界のトップダンサーやバレエ関係者の心を動かしただけはあると。
歯に衣着せぬ発言に負けない実行力!ブレない佐々木忠次氏の性格がよく出ています。
行政側の「文化」に対する無理解に対して斬りまくる内容に「こんなこと言っていいの!?」と思うほど。

この佐々木忠次氏の功績は挙げたらキリがありません。

その昔「バレエは好きで踊るもの」高尚な習い事のひとつとして
存在を認められてはいたものの、欧米のように
職業ダンサーとして食べて生きていける人は殆どいなかった時代。
日本では歌舞伎、能、狂言・・・伝統芸能が多く、文化庁が国をあげて
バレエ団を創設するほど予算を割けない現状がありますが
初めてバレエダンサーに給与が支払われるシステムを民間で導入したのが佐々木忠次氏です。

また欧米の権威ある振付家、故モーリス・ベジャールに「ザ・カブキ」
ノイマイヤーに「月に寄せる七つの俳句」など日本を題材にしたオリジナル・バレエ作品を依頼し、フランス・オペラ座をはじめ、
欧米への海外公演数を飛躍的に伸ばし、海外にその名を知らしめたのです。
他のバレエ団もその成功に倣って、振り付けを海外の巨匠に依頼してオリジナル演目を増やしてはいるケースはあるものの・・・
いまだ追いつけてません。

また世界の有名バレエ団やオペラの招聘数も枚挙に暇がなくパリ・オペラ座バレエ団に
ロシアの殿堂ボリショイ、マリインスキーそして英国ロイヤルバレエ団・・・
海外の著名な国立バレエ団の「引っ越し」規模での一大公演を日本で楽しめる礎を創ったのです。
もう民間とは思えないプロデュース力ですよね。

borishoi_ballet_swanlake

そんな数々の偉業を達成した佐々木忠次氏の心に禍根を残す結果となったのが初台にある「東京オペラシティ」。

計画当時、日本のバレエ・オペラ関係者にとって悲願の最新設備を擁した新国立劇場でした。
その立案時「主催者の負担を少なくし、チケットで採算をとる為には収容人数2500人のキャパシティにするべき!」と行政側に強く説得を試みたものの、結局、建てられた劇場の収容は1800人・・・・・。
いわゆる「ハコモノ」になってしまった事をことのほか嘆いておりました。
その経緯があり、新国立劇場のバレエ部門は東京バレエ団ではなく牧阿佐美バレエ団系の関係者が中心になり運営を担う形で落ち着き、佐々木忠次氏の日本舞台芸術振興会(NBS)が招聘する公演では東京文化会館(収容人数2,300人)が今も使われているのです。
ちなみにK-バレエの本拠であるBunkamuraオーチャードホールは2,150人。関西を代表する大阪フェスティバルホールは3,000人、
よくバレエコンクールの会場で使うゆうぽうとホール(五反田)は1,800人です。

佐々木忠次氏でなければ語れないオフレコのような話がふんだんに入っている書籍。
個人見解なので偏りがちな部分はあるかも知れませんが、バレエ・オペラを愛する人ならぜひ読んでみる価値アリです。
踊るだけでは、観るだけではわからないバレエの世界が見えてきます。


カテゴリー: バレエ業界   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

コメントは受け付けていません。